この記事ではトミクラフトのデザイナーが、2023年新作「江戸硝子うるしシリーズ」ができるまでの試行錯誤をお話します!
江戸硝子うるしとは?
『江戸硝子うるし』は、わたしたちが作った造語です。会津にもともと『会津漆器』と呼ばれる伝統的な技法があります。
そこから発展し、現在ではガラスに漆をほどこす会津ガラス漆が登場。
これまでは、透明なグラスやガラスの器に漆が塗られたものが多かったようです。
これを「江戸硝子に塗ってみよう!」と考え江戸硝子うるしシリーズは誕生しました。
ここからは、福島県の伝統的な漆塗りの歴史と、このアイテムができるまでのプロセスをご紹介しましょう。江戸硝子の歴史については『江戸硝子とは?伝統の最先端を走る"粋"なデザインの魅力に迫る』をご覧くださいませ!
会津の漆塗りと江戸硝子の融合
福島県の伝統的な漆塗り~漆の歴史~
会津の漆の歴史は古く、室町時代が始まりと言われています。
会津地方は、越後山脈や奥羽山脈の山に囲まれており、盆地が持つ湿度の高い気候が漆を扱う環境として適していました。漆の木は、種の皮が硬いため自然な発芽が難しく、増やすのがとても難しい植物です。
さらに、木から1度漆の樹液を採ると、伐採してしまいます。果物のように同じ木から来年も漆の樹液が採れるわけではないからです。育てるのが難しい漆の木は、会津の湿潤な気候を活かし、人手と年月をかけて植林されてきました。
天正十八年(1590年)、ときの藩主・蒲生氏郷(がもう うじさと)が産業としてさらに推奨しました。
千利休の弟子を務めていた蒲生氏郷は、弟子の中でも優れた文化人だったため、漆器の職人を会津に招き、高い技術を広めてゆきました。
そして江戸時代には保科正之(ほしなまきゆき )が力を注ぎ、漆の木の保護育成や会津漆器を保護したことで、現代の特産品となりました。
ガラスへの漆塗りの実現ー職人の技術
ガラスに漆を塗る技法は、会津の塗師である職人さんが開発しました。
お客さんから「漆器で懐石料理をいただいたとき、最後のアイスの器だけが、ふつうのガラスでつまらなかった」と耳にし、そこからガラスに漆を塗る試行錯誤が開始。
漆は素材との相性が合えば、木、竹、金属、陶器などなんでも塗ることができます。
しかし、ガラスに漆を塗る発想や技術は世の中にあまりなく、独自の開発は大変難航したそうです。漆をガラスに塗って一日水に浸けておくと、漆がそっくり抜け落ちてしまったことも。
そんな中、漆を精製する漆屋と相談しながら下準備の段階に工夫をすることで、画期的な密着法を考案され、さらには漆に密着しやすいガラスを探し求めて続けたと言います。
こうして何度も何度も試行錯誤を重ね、「会津ガラス漆」は誕生しました。
江戸硝子に合う漆色を求めて
どうやら福島県の会津地方で、ガラスに漆を塗れるところがあるとわかり「これは美しい!いろんな色で、江戸硝子に会津の漆を合わせたものを見てみたい!」と心踊りました。
こうして、東京と福島をつなぐ江戸×会津の技がミックスしたアイテムの企画がスタートしました。
Tomi CRAFTの江戸硝子の色は非常に複雑です。
一見ブルーでも、その紺色を際立たせて見せるためにピンクや水色の粒をわざと入れています。
かたや、漆は朱、黒、白とシンプル。
複雑×シンプルという反対の性質が、ガラスと漆が互いに引き立て合うことは、サンプルを作る前から「良くなりそう!」と想像がつきました。
おちょこタイプの吟醸型は、お酒を注いだ部分を覗き込むと美しく見えるよう、漆を外に塗りました。案の定、飲む人だけに世界が広がるような、内側が美しい酒器が完成しました。
ところが、タンブラーを作りはじめたとき、背が高くなっただけでデザインのハードルがあがりました。
おちょこタイプの吟醸は高さがなく、のぞき込むことが多いものです。なので、外側全面に漆を施しても、違和感はありませんでした。
しかしタンブラーは高さがあるため、吟醸と比べると、漆の単色が強く主張し、せっかくのガラスの色粒が見えずらくなってしまいました。
「これでは互いの良さがなくなってしまう」と、漆を塗る部分を内側へ変更してもらい、ガラスの透明感と均一に塗られた漆の技術は、飲むときにだけ感じられる仕様に変更しました。
さらに、ここからも試行錯誤の始まりでした。
色が納得いかないのです。
吟醸と全く同じカラー展開にしようと考えていましたが、いざサンプルがあがってくると、イメージと違い、ガラスの色が埋もれたような表情に見えました。
あえて同系色をやめて「赤×紺」のように色の組み合わせを外してみたりもしましたが、漆とガラスの強さは感じられながら、優しい風合いは失われてしまいます。
漆を内側に塗るか、外側に塗るかで、こんなにも印象が変わるなんて予想しておらず、「内、外、色」のかけ合わせが何通りもあることに気づき、可能性にびっくり!
それでもなんとかカラーリングしたときのイメージを絵に描いてふり絞りました。
こうして、何度も職人さんにもカラーバリエーションをお願いし、試行錯誤の末ようやく、六角タンブラーの色を決めることができました。
特別な瞬間にも普段使いにも使える
『江戸硝子うるし』は大切な思い出となる特別な記念日から、日々のおうちでの晩酌まで、幅広いタイミングや用途で楽しんでいただけます。
・おめでたいことがあったとき(結婚記念日・還暦の記念日)
・感謝の気持ちをつたえたいとき(送別会・家族の誕生日)
・伝統技術に興味がある方やお酒が好きな方
・おうちでのふだん使い(晩酌・ホームパーティー)
吟醸は久保田のようなすっきりした日本酒なら青系を、獺祭のようにフルーティーな日本酒には赤系など、好みのお酒の味と酒器の色を組み合わせれば、いっそうおいしく感じられるでしょう。
おちょこサイズなのでお酒はもちろん、小鉢としてごま豆腐や白和えなど、副菜を盛りつけても食卓が華やかになります。
タンブラーは氷を入れて梅酒や杏露酒などの果実酒もいいですし、焼酎のロックやウイスキーを少量入れても。また、170ml入るので、ビールやサワーも使えます。
季節に合わせた色を選ぶのも楽しいですよ。お酒以外にも、お茶や炭酸水を入れて使うこともできます。普段使いにもぴったりです。
漆はなぜ良いの?機能性は?
漆には耐久性があり、表面を劣化や腐食から保護します。また、防水性が高いため昔から木の食器に塗られてきました。
さらに漆には抗菌性があり、菌や細菌の繁殖を抑制することができると言われています。
漆は美しい光沢を持ち、色鮮やかな色合いも漆ならでは特徴です。
美しい!漆とガラスの色
東京の墨田区・江戸硝子の工場でつくられ、会津の塗師により漆が外側にほどこされています。
それぞれの色と用途を詳しく見てゆきましょう!
白こうめ(ピンク)と白すいてん(水色)
男女ペアにもなる爽やかな色の組み合わせは日常使いしやすいです。
白こうめ(ピンク)は小梅をイメージした赤いガラスパウダーをベースにしています。白すいてん(水色)は、江戸の水路をイメージしたコバルトブルーが美しいです。どちらも漆のカラーを白にすることで、ガラスや金箔のキラキラした表情と色味をいっそう引き立たせることに成功しました。
フルーティーなお酒や、和洋問わず、食卓に用いやすいデザインです。
黒きよすみ(黒)と朱こうめ(赤)
男女ペアにもなるトラディショナルな色の組み合わせは年齢を問いません。
朱こうめ(赤)は小梅をイメージした赤いガラスパウダーをベースにしています。黒きよすみ(黒)は、紺やコバルトブルーに金箔が映えて美しいです。漆のカラーを黒と赤の定番カラーにすることで、会津の漆塗りの良さと江戸硝子の魅力が融合しています。
辛口なお酒や、節句やお正月などおめでたい席、和食や中華などの食卓に用いやすいデザインです。
取り扱いとご注意
やわらかいスポンジで優しく洗い、使用後はさっと水気をふき取ってよく乾かしましょう。紫外線に弱いので、日の当たらない場所で保管します。
本体はハンドメイドガラスのため、食器洗浄機、電子レンジのご使用はできません。熱いお酒も入れられません。急激な温度差に耐えられず、割れてしまうことがあります。
江戸硝子は、手作り特有のサイズや形状に多少バラつきがあります。
まとめ
新作をつくるとき、いつも驚くのは「挑戦し、いいものを作っていこう」とする職人さんの気概です。ガラスの業界を含め、日本の工芸品を生業とする小さな工房は、倒産や廃業が続いています。ガラス漆器は塗り代が割高という理由で、問屋さんでなかなか扱ってもらえなかったそうで、職人さん自ら販路を開くために飛び回っていらっしゃいます。伝統を生かしながら新しい分野を広げ、会津塗を守ってゆこうとする姿に感銘をうけました。
わたしたち富硝子も、伝統を守りながら人々に愛される暮らしの器をつくってゆきたいと思っています。
ガラスのデザインの力と、職人の技術と知恵が合わさって、想像以上のものを見たときのよろこびはひとしおです。ぜひお客様にも会津ガラスうるしの美しさを、実物で感じていただけましたら幸いです。
江戸硝子うるしシリーズの購入はこちら。
タンブラーは2023年4月より発売です。それまではcreemaSPRINGSで先行販売中!
この記事を書いた人
東京・亀戸で70年以上ガラス屋をしている富硝子株式会社(Tomi Glass Co.,Ltd.)のデザイナー。富硝子はカラーチェンジグラス・トミレーベルや、江戸硝子や小樽硝子などのハンドメイドガラスなど、おしゃれで豊富なアイデアが楽しいガラス屋です。