ビールを注ぐと、きめ細かい泡が立つ「泡立ち機能付きグラス」をご存じですか?
この記事では、ガラス屋のマニアックな視点から、「泡立ちグラス」の仕組みとアイテムの紹介や取り扱いの注意点をご紹介します。
泡立ちグラスとは?
泡立ちグラスとは、ビールを注いだときにきめ細かい泡が立つよう、グラスの内側に特殊な加工をしたグラスのこと。
ビールの泡にはふつうの炭酸水とは違い、麦芽のタンパク質やホップの苦味成分が含まれているといいます。まろやかな泡そのものを楽しめるお酒はビールくらいではないでしょうか?
ふつうのグラス(左)は透明ですが、泡立ち機能付きのグラス(右)は、
内側がすりガラス調のものが多いです。
シャンパングラスなどは、お酒が当たる部分にだけ泡立ち加工がされているものもあります。
ガラス食器ブランド・トミレーベルでは、ビールの泡を味わえるさまざまな「泡立ちグラス」を2010年頃から展開しています。
どうしてビールの泡立ちが良くなるの?
ガラスの表面に細かい凹凸をつくり、そこに炭酸を当てることで細かい泡を発生させています。
ふつうのグラスでも、きれいに洗ってよく乾かし、キンキンにグラスとビールを冷やせば、お店のように泡を立たせることは可能です。
でも、「泡立ちグラス」を使えばもっと簡単にクリーミーな泡を立たせ、ビールの美味しさを引き出すことができます。
泡立ちグラスの仕組みは内側にヒントがあり!
泡立ちグラスの内側を手でさわってみると、ふつうのグラスよりもザラザラらしています。
ここを拡大して見ると、ガラスの内側に細かい凹凸があるため、触るとザラザラに感じるのです。
凹凸にビールを注ぐと、炭酸部分が当たる表面積が増えます。
また、炭酸が凹凸にぶつかって泡を抱き、よりクリーミーな泡が立つ仕組みになっています。
ガラスに砂を当てる「サンドブラスト」とは?
ガラスの表面をザラザラにする加工の代表的なものにサンドブラストと呼ばれる砂を当てる技術があります。
サンドブラストはガラスの名入れや彫刻にも使われる技法。
専用の箱の中で勢いよく砂が出るノズルを当てて、ガラスの表面をうっすら削り、すりガラスのような状態にしています。
トミレーベルの泡立ちアイテムは、ひとつひとつ手作業で内側にサンドブラストをかけています。手間はかかりますが、手作業にすることで口元のざらつきを抑え、均等に凹凸を作ることができます。
実践!泡立ちグラスは本当にきめ細かい泡が立つのか?
では、本当にビールを注ぐだけできめ細かい泡が立つのか実際に比べてみましょう。
用意するものは…
- 冷えたビール
- 洗って乾かした泡立ちグラス
まず、泡立ちグラスを洗ってよく乾かします。
ポイントは、すすぐときにお風呂くらいの温度にすること。
ぬるま湯ですすぐことで、ガラスの水分が乾燥しやすくなります。
あとはそっとビールを注ぐだけ。
左がふつうのグラス、右は泡立ち機能があるグラスです。
泡立ち機能がある右の方が、泡の厚みがふっくらして、泡の粒も細かく見えます。
一方、ふつうのグラスに注がれたビールは、泡が粗く注いだあとすぐにしぼんでしまいます。
ビールと泡のおいしい比率は7:3といわれているので、ぜひめざしてみてください。
ビールを注ぐ前に!泡立ちグラスを使うポイント
泡立ち機能を活かすためには、よく乾かすことが重要です。
ガラスの表面が塗れていたり、油汚れがあると、炭酸の空気が泡を抱くことができず、柔らかい泡になりません。
写真左はまだ完全に乾いていない状態なので×。
半透明な部分、すりガラスの部分にムラがあるのでもっと乾かしましょう。
写真右のように、完全に乾くと泡立ち加工が施された部分は船体的に白っぽくマットになります。
泡立ちグラスの取り扱いの注意点
泡立ちグラスはふつうのソーダガラスと基本の取り扱い方法は変わりません。
食洗機はNGで熱湯も不可です。
内側をサンドブラストにかける特殊な加工を施しているため、長く使うために2つのポイントをおさえるといいでしょう◎
- 濃い飲み物をいれて放置しない
ワインやアイスコーヒー、紅茶など、色の濃いものをいれたまま放置すると、内側の凸凹に色素沈着して、落ちなくなることがあります。
- 重ねて衝撃を与えない
サンドブラストは、細かい砂を当てて表面を薄く彫刻したような状態です。当たりどころが悪いとサンドの部分から割れてしまう可能性があるので、他の食器と重ねたり、シンクなどでぶつけるリスクが高い洗い方は避けましょう。
ガラスの洗い方にご不安な方は『グラスの正しいお手入れと保管方法』にも合わせておすすめです。
おすすめの泡立ちグラス
泡立ちグラスにはさまざまなデザインがあります。おうちで晩酌するときにふだん使いできるタンブラーから、老若男女問わず人気の富士山型までご紹介いたします。
▲リーズナブルながら機能性もあるふだん使いにぴったり!
▲難易度の高い内側をマスクする技法で、雲や富士山はサンドをかけない凝ったデザイン。▲青い色ガラスの内側に泡立ち機能を施したグラス。
かわいい白イルカの表情に癒されます。(2022年完売しました)
▲タイヤ痕のデザイン部分に注ぐと泡立つ小樽再生ガラス。
(クラウドファンディングMakuake(マクアケ)で2021年6月29日に販売していました。)
まとめ:泡立ち機能のあるグラスを使えば、注ぎ方のコツはいらない!
缶ビールを美しく注ぐのは、案外難しいと思います。
丁寧すぎると泡が立たず、勢いがありすぎても缶の口からこぼれてしまう…!
また、買い物帰りのビールと、冷蔵庫で保管していたビールでは泡立ち方が違いますし、
グラスが常温の食器棚で保管されていたとしても、夏と冬でガラスの冷え具合が異なります。
グラスを冷蔵庫に冷やしておく方法もありますが、なかなか下準備するのも面倒ですよね。
泡立ちグラスなら注ぎ方のコツを知らなくても、
まろやかなビールの泡を立たせることができます。
衛生的にも視覚的にもビアグラスを使えば美味しくなるメリットがたくさん!ぜひ泡立ちグラスでビールの美味しさを極限まで引き出してみてください。
この記事を書いた人
東京・亀戸で70年以上ガラス屋をしている富硝子株式会社(Tomi Glass Co.,Ltd.)のデザイナー。富硝子はカラーチェンジグラス・トミレーベルや、江戸硝子や小樽硝子などのハンドメイドガラスなど、おしゃれで豊富なアイデアが楽しいガラス屋です。