例えばスーパーでお買い物をするとき、産地を確認する方も多いのではないでしょうか。家族が口にするものは、安心で安全なものを選びたいものです。
食器だって同じですよね。「この商品はどこで?」「誰が作ったの?」「なにでできてるの?」と、想像してみるのは、SDGsの目標のひとつ「つくる責任、つかう責任」への一歩です。
わたしたちガラス屋ができることは、生産背景がクリアなアイテムをお届けし、長く大切につかっていただくこと。廃棄を減らし、適正な価格で、大量に作りすぎないこと。
今回は小樽のガラス工場を例に、ガラス生産ならではの環境への取り組みをご紹介いたします!
北国でつくるガラス、小樽硝子とは?
今回ピックアップするガラスは、食器ブランドTomi CRAFTの小樽硝子です。小樽硝子とは、北海道小樽の地域でつくられている手作りガラスのこと。
1点ずつ吹いてつくる「吹きガラス」を得意としています。
もとは漁業の浮き球や、ランプのガラスパーツは、昔は吹きガラスで手づくりされていました。
小樽とガラスの歴史
小樽硝子のはじまりは明治の開拓時代に、漁港でランプの需要が増えた頃と言われています。
西洋文化が根付いた北海道では、ストーブが主流になり、暖かい部屋でアイスやビールを嗜むことが習慣化しました。「夜パフェ」のように寒い中で冷たいものを楽しむ北海道独自の食文化にともなって、ガラス食器もともに歩んできたと言えます。
雪解け水でガラスができる?ってどうゆうこと?
このアイテムを製造している、小樽のガラス工場は、雪をガラスの熱で溶かし、作業水として循環させる活気的な取り組みをしています。
雪の降る寒い地域性と、熱が必ず発生するガラス製造現場で相乗効果がうまれるのです。
ガラス工業では、たくさんの作業水を使い、排出します。この工場は、冬は雪解け水を、夏は雨水を貯水。それから、使い終わった水は市の基準値にして排水しています。
海の近くの工場として、北海道のおいしい海の幸も守る取り組みをしています。
ガラスの完成には、水が欠かせない
ガラスを高温で溶かすと飴のようにドロドロになり、ドロドロの状態を加工してガラス製品になります。
ガラス工場では電気やガスなどさまざまな炉(ろ)が設備されています。工場によっては窯(かま)と呼ぶところも。
火や熱でガラスが融けるのはイメージがつきますが、大量の水が必要とは、意外ではないでしょうか?
ここからは、実際に工場の作業から、水を使うシーンをのぞいてみましょう!
小樽のガラス工場に行ってきました
こちらは、わたしが小樽のガラス工場へ出張へ行ったときの写真です。
左は棹(さお)にガラスのたねを巻き取って吹く職人です。炉の中の光がオレンジ色に反射していますね。
右の丸枠の中は、ななめの黒いボウルのようなところで、たねをコロコロ転がし、球体に近づけている様子。形を整えるときに、濡れた新聞紙を使うなど、ここにも水が使われています。
観光地のガラス体験でも身近な「吹きガラス」ですが、
型に吹き込んで薄く仕上げるには、職人の高い技術を要します。
この工場でつくっている「型吹き」は、素人にはできない、職人による半人工的な手法です。
こちらは、ひとりがガラスを吹き、もう一人が型のついている機械を操作する様子。
このとき、半地下の型には水を吹きかけて冷やせる仕組みになっています。真冬は水がかかり、半型を開く人はとっても寒そう…!
なかなか過酷です。
切子やカップのクチをなめらかにする作業にも、大量の水を使います。
ガラスを切るときは、水で冷やしながら刃をあてないと、摩擦熱でガラスが割れてしまうためです。
ガラス加工の職人は、夏も冬も水しぶきを浴びながら、何度も何度もガラスを削ったり磨いたりします。
雪を無駄にせず、資源としてさいごまで使う
このように、小樽のガラス工場では貯水した作業水を日常的に使用し、水道代をおさえる工夫をされています。
しかし、雪は同じ場所に積もってくれません。雪かきのときに、あたたかいダクトの下に雪を集め、効率よく貯水できるようにしています。こうした人の意識と小さな努力の積み重ねで、このサイクルが完成していることがわかりました。
生産背景がはっきりしたガラス食器を選ぶポイント
ここまででは、小樽ガラスを例に生産背景をご紹介しました。
ここからは、ふだん食器を新しく選ぶときの、3つのポイントをご紹介いたしましょう。
3つのポイント
1.生産国がはっきり明記されている
生産国は一般的にはさいごに加工した国が表示されています。タグや商品説明ですぐに見つかる商品がおすすめです。さらに、原産国と最終加工した国を細かく書いてあればより信頼できます。買い物の失敗を防ぐためにスペックはよくチェックしましょう。
2.工場の紹介がある
企業が自信をもって生産した商品には、職人や工場の写真が公開されています。そのため、もし作り手の紹介がある場合は、道具や手元を見てしましょう。使い古された道具は老舗の感じがしますし、美しく整頓された現場は清潔感があり品質も期待できます。手元からどんな性別のどんな年代の人によって作られているか想像するのも、お買い物の楽しみのひとつです。
3.安すぎず、高すぎない
大量に生産して1個の単価をおさえていく方法は低コストで済みます。しかし、売れなければ大量に廃棄することに…。「これからはファストファッションや均一ショップじゃないものを買おうかな」とお考えの方には、まずは価格をよく見てみてください。類似品は不自然に安価であったり、転売されたものは極端に高値がついています。同じ商品名で検索してみるなど、相場をリサーチすることもポイントです。
おすすめの小樽硝子
Tomi CRAFT の「小樽硝子」は富硝子が企画&デザインをし、小樽のガラス工場の職人によってひとつずつ手づくりで生まれました。
シンプルなのに個性的。小樽で吹かれた、小さなおちょこ。薄く吹かれたガラスの、モールのゆらぎが美しい酒器です。
金魚鉢のようなフォルムがかわいく、小さいのに量が入るところも魅力的。
底の面積が小さく、まるでおちょこが浮いてるようでスタイリッシュです。「吹きガラス」は紀元前1世紀からある空気で膨らませる基本的な製法ですが、薄く吹くためには熟練技が必要です。
パッケージの緩衝材は紙をメインにしています。ボックスはカカオミックス®という、チョコレートの製造時に捨ててしまうカカオ豆の皮が原料の紙を選びました。
まとめ:楽しみながらSDGsを意識したお買い物を
わたしは、数年前にちょっと奮発して家具屋さんで国産のいいソファを購入しました。その後、お財布の紐が硬くなるにつれ「背伸びしてしまった!」と後悔する日もありましたが、お気に入りのソファは何年経ってもくたびれず、化学物質の匂いもしないので、使うたびに安心で満足な気持ちになります。
人によってものを買うときの決め手は千差万別です。予算があって、長く使えるいいものを探しているときは、商品をつくっている生産背景まで目を向けてみるのもいいでしょう。生産背景まで興味をもつことは、結果的にSDGsの目標のひとつ「つくる責任、つかう責任」への一歩となり、失敗しないコツでもあります。
食器の新調やギフト選びが楽しくなりますように。参考になりましたら幸いです。
おすすめの小樽硝子
車の窓をアップサイクルした再生ガラスのタンブラー
職人が切子したものもございます
この記事を書いた人
東京・亀戸で70年以上ガラス屋をしている富硝子株式会社(Tomi Glass Co.,Ltd.)のデザイナー。富硝子はカラーチェンジグラス・トミレーベルや、江戸硝子や小樽硝子などのハンドメイドガラスなど、おしゃれで豊富なアイデアが楽しいガラス屋です。