お客様からよく「江戸切子と江戸硝子はどう違うのですか?」という質問をいただきます。
この記事では、江戸切子と江戸硝子の分類についてと、良い切子グラスを選ぶにはどこに注目するべきかをガラスのプロがご紹介します。
江戸切子と江戸硝子の違い
江戸切子は江戸の文様や意匠を当時の技術を継承してハンドカットしたもの。江戸硝子は江戸からの作り方を受け継ぐ指定された窯元で作られているグラス類をそう呼びます。
上の図は、当ショップのガラスを分類分けした図です。ハンドメイドガラスの中でも、江戸硝子・小樽硝子と分かれており、江戸硝子の中でもいろんな加工方法によって、名前が変わります。
「江戸」がつく・つかないは「かつて江戸と呼ばれた地域で作られていた技を、継承しているかどうか」がポイントになっており、国や都が指定した工場で作られたものだけが「江戸」を名乗れるといえます。
そして、ハンドメイドの技法のひとつにガラス細工の「切子」があり、伝統工芸師監修のもと江戸の地域で作られたガラス工芸品が「江戸切子」と定義されています。
江戸切子(えどきりこ)とは?
切子とはhand cut glass、つまり江戸ガラスに職人がカットする技法です。江戸切子は180もの意匠や技法が切子職人が江戸時代より現代に伝えられてきた伝統工芸品です。砥石やグラインダーなどをつかってガラス器に美しいカット模様を切り込むには熟練の技が必要です。
東京都指定伝統工芸品経済と、経済産業大臣指定伝統的工芸品に認定されています。
江戸硝子(えどがらす)とは?
江戸の地域で作られていたガラス。さらに指定された窯元で生産されたものだけが「江戸硝子」と呼ばれます。江戸硝子を作れる工場は、関東には指折り数えるほどしかありません。
色粒を入れたり、口をすり合わせて醤油差しにしたり、デザインはさまざま。
東京都指定伝統工芸品のため、東京都知事が認定した伝統工芸士の監修のもと、手作りで製作されています。
当ショップの人気ブランドTOMI CRAFTの江戸硝子は、墨田区の岩澤硝子燻製です。
「切子」ってなに?
ガラスの表面を削って、幾何学的なパターンを彫り込む技法のことです。ですので、江戸切子のほかに、薩摩切子、小樽切子など地方によって名称があったり、平切子(ひらきりこ)、花切子(はなきりこ)、グレーカットなど、技法によってさらに細かい加工名もあります。
もとはヨーロッパからきたカットガラスの技法で、17世紀ごろに長崎でつくられ、その後全国に広がりました。切子の技は、江戸で成熟したといっても過言ではありません。
海外製でも「切子」なの?
カット前のグラスが海外製でも「切子」と名前がついて販売されているものもあります。
グラスは中国産、カットは日本の場合は最終加工が日本のためmade in JAPANとなっていることも。
また年々、中国の職人の技術も上がってきている傾向があるため、素人目にはほとんど違いがわかりません。
もし、本物の江戸切子を手に入れたい場合は、購入前にライセンスシールや原産国の表示を見ておくとGOOD。和風のシールが貼られていても「made in China」と小さく書かれていることも。また、信頼できるお店で購入するなど、よく確認しましょう。
審美眼を磨け!切子の腕前がわかる方法
その道のプロが見れば、腕の良い切子と、そうでない切子を見分けることができます。子どもの頃からガラス屋で生まれ、ガラスの道50年以上の弊社社長にインタビューして聞いてみました。
腕の良い切子とは?
「腕の良い切子は、芯がしっかりあり、磨かれていること」とのこと。これだけでは、なんのことだかわたくしもピンときません…。
ここからは実際に写真とともに、クローズアップしてみてみましょう!
ポイント1 模様が揃っているか?
安価な切子は、カットがピタっと合っていないことが多いです。写真は、文様が不揃いになっており、カットの先が閉じていたり、いなかったり…と、角度のズレが影響し、雑に見えています。
伝統工芸師がカットした切子は、模様が美しく揃っています。
この文様は八角籠目(はっかくかごめ)。水色のラインは完璧な90度です。数ミリでも狂うとこの意匠は崩れてしまいます。まさに神業…!
ポイント2 面はピカピカに磨かれているか?
切子の技術は、磨きの美しさでも職人の腕前を感じることができます。
上の写真は、ぱっと見はキレイですが、よく見ると細い線のようなものが見られ、カット面が少しくすんでいるのがわかりますか?
こちらは伝統工芸師監修の切子。磨かれた部分がピカピカに反射しています。面を観察しても線やくすみはなく、向こう側も透き通って見えます。
ポイント3 輪郭がはっきりとエッジが効いているか?
社長は切子を見るポイントを「芯がしっかり磨けていること」と言いました。
芯とは、Vカット面の一番深い部分のこと。写真の切子は、芯が磨けておらずぼやけており、水色のラインのように中心線にガタガタとゆらぎが出てしまっています。
美しい切子は、カットされた中心の線に迷いがなく、輪郭もはっきりしています。これは、職人が何度もグラインダーで削るときに、毎回同じ角度と力をかけることができている証です。
職人技光る!おすすめの切子グラス
さて、みなさまの切子を見分ける目もワンランクアップしたところで、ここからはおすすめの切子グラスをご紹介します。
どれも職人がひとつひとつハンドカットした手づくりのグラスです。
切子グラスで何を飲む?
切子グラスにはお酒のイメージがありますが、梅酒ロックを飲んでも、お茶を飲んでも良いのです。日本の工芸品なので、日本酒じゃなきゃ…!というわけでもなく、アイスコーヒーやパフェを入れるカフェもあります。実際にドリンクを入れてみることで、いろんな表情が見られますよ。
北海道の雪解け水でつくる小樽切子
小樽切子は、東京で修業を積んだ女性の切子職人と、若手の切子職人が小樽でカットしています。
切子の技法はあえて磨かない「グレーカット」という技法を使用。輪郭がはっきりしていて、模様も丁寧に彫刻されており、ズレがありません…(美しい!)。
TOMI CRAFTの小樽切子は、伝統的な「菊紋」を職人さんのセンスでアレンジしていただき、「星」や「花」と名付け、おしゃれで女性的な切子グラスを開発…!
手に取りながらじっくり切子の部分を眺めると、このグラスを切っているときの集中力が伝わってくるようです。
シンプルでクリアな吹きガラスに切子が映えるタンブラー。焼酎や梅酒ロックに。
ブルーのガラス粒が反射。底の切子を眺めながら飲むお酒は最高!
カラフルなグラスの底をカットした江戸硝子きわみシリーズ
江戸硝子きわみシリーズは、切子の一種である「平磨き」という手法で切削された江戸硝子です。木箱入りで、磨いた底面は高級感があります。
富硝子株式会社に所属するガラスの道40年のベテラン職人だけがカットできる、大変貴重な技です。
眺めているとうっとりするほど、ピカピカに美しく磨かれた吟醸。
白いガラスパウダーをベースに、複数の青を混ぜいるのでカットにブルーが屈折して美しいタンブラー。
江戸切子で修業を積んだ、小樽の職人によって丹精にカットされた小樽切子。
まとめ
ヨーロッパから伝わった幾何学模様を彫刻するハンドカットの技術は、日本人の気質にマッチし、国を代表する伝統工芸品の「江戸切子」となりました。
江戸切子の意匠や職人技が弟子に継承され、小樽切子など新しい国産切子ガラスも登場してきています。
もし自分のお気に入りの切子グラスが手に入ったなら、飾るだけでなく、とことん愛用するのがおすすめ。手に取ると、カットひとつひとつに職人の集中力が伝わります。
本当に良いと思えるものが、暮らしの中にあると豊かな気持ちになって癒されます。
ぜひ、素敵な切子グラスを見つけてみてください。
この記事を書いた人
東京・亀戸で70年以上ガラス屋をしている富硝子株式会社(Tomi Glass Co.,Ltd.)のデザイナー。富硝子はカラーチェンジグラス・トミレーベルや、江戸硝子や小樽硝子などのハンドメイドガラスなど、おしゃれで豊富なアイデアが楽しいガラス屋です。